「今、ここ」に存在することの難しさ

あっというまに寒くなり、冬らしさが増してきました。これから年末に向けて、いつにもまして慌ただしさを感じる時期ではないでしょうか。

私は忙しくなるといつも、何かをしながら頭では次にすることの段取りを考えていたり、何かを考えながら別の作業を機械的にこなしていたりします。皆さんはどうでしょうか。

歩きながら常に考え事をしている、青信号を見ると急いでもいないのに反射的に走りだす、エレベーターがすぐに来ないとイライラして、乗りこむと即座に「閉まる」ボタンを押してしまう。食事もテレビを見ながら考え事をしながら、どんな味だったのか覚えていないこともしばしば…。

忙しいときはもちろんですが、日常「今ここ」で何かをしていながら、心はそこから離れてしまっていることが現代人は多いのかもしれないと思います。

落ち込んでいるときや不安を感じているときも、人の心は「今ここ」から離れてしまいがちです。「過去」のことを何度も思い返して後悔したり、これから起こるかもしれない「未来」の出来事をあれこれ心配して不安になったり。せっかく生きているのに、「今ここ」での体験を味わうことができないともったいないですよね。

また、「過去」や「未来」についての考え込みのグルグル(反すうや思考の悪循環)にはまってしまうと大変です。「あのとき、どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。」「来週のプレゼンが不安で仕方ない。こんなことでドキドキするなんて情けないなあ。」などと、自分の気持ちや言動に対して「良い・悪い」の評価をつけつつ、心はいつまでも過去や未来に飛んだまま。これでは精神的不調にもつながりかねません。

「今ここ」から離れてしまいがちな心にはどう対処することができるのでしょうか。

皆さんは「マインドフルネス」という言葉を聞いたことがありますか?認知行動療法では、第三世代にあたる弁証法的行動療法や、マインドフルネス認知療法のなかで実践されるものです。最近では、アップル、ヤフー、グーグル、スターバックスなど、従業員向けのプログラムにマインドフルネスを取り入れている企業が増えてきています。

「マインドフルネス」と聞くと、イメージとして「瞑想」を連想するかたが多いかもしれません。確かに、瞑想はマインドフルネスの重要なトレーニング要素のひとつです。ただ、マインドフルネス=瞑想ではありません。マインドフルネスとは、「『今ここ』の体験を、価値判断をせずに、観ること(あるいは注意を向けること)」を意味します。

自分で自分の体験や気持ちに気づくこと、それらを受け入れること、集中したりボーっとしたりする時間を自分で選択できるようになること。自分ひとりで練習して身に着けるのは中々難しいですが、最近はマインドフルネスに関する書籍がたくさん出ていますので、参考にされると良いかもしれません。もちろん、直接的なガイドを望まれる場合は、東京認知行動療法センターの心理士が全力でお手伝いいたします。

(M・N)