東日本大震災の支援の経験から思うこと(1)

earthquake2下山晴彦

2011年始めに、ある団体から「恵み」についてエッセーを書いてほしいと依頼されていた。当初は、自然の恵みについて書く準備をしていた。しかし、3月11日の、忘れもしない、あの大震災に直面し、私たちは自然の猛威の前に立ちつくした。あれから既に2年以上が経つが復興に向けて動きは遅々として進まないようにも思える。被災地の皆さんの辛い毎日は、今も続いている。

あの大震災を経て三陸の海や山の自然の恵みを満喫していた人々が、一転して、その自然のなせるわざによって家族、家屋、仕事、さらには地域そのものを喪失してしまった。何と言葉をかけてよいのかわからない状態であった。心理支援のために現地に赴いたスクールカウンセラーは、「避難所では、家族を含めて多くのものを失い、黙している大人の中で楽しそうに遊ぶ子どもの笑い声が唯一救いなっていた。ところが、一緒に遊んだ後に、その子がふと淋しそうな表情になって『おばあちゃんが行方不明なんだ』ともらした。お母さんは、その子が『眠れない。怖い夢を見る』と言って甘えてくることを心配していた。」と語っていた。

東北の皆さんは我慢強い。実際には、地震や津波を連想させる、ちょっとした刺激でフラッシュバックといって、辛い思い出が生々しく蘇ってくることが起きているはずである。しかし、多くの被災者は、それを自ら語らない。不安を訴えることも少ない。文科省は、特別予算でスクールカウンセラーを被災地の学校に派遣し、子どもの心のケアを進めてきているが、十分な対応ができていないとも聞く。我慢強い東日本の人々に即した支援の方法が、今まさに問われているといえるだろう。

本センターは、認知行動療法を活用した心の問題解決支援を行っている。認知行動療法は、欧米の文化において生まれたものである。欧米流の個人主義を前提としているともいえる。したがって、本センターの使命として、単に欧米流の認知行動療法を日本に適用するのではなく、日本の文化に根差した、日本人のための認知行動療法を発展させることがある。私たちメンバーは、そのようなことを第一に考えて日々の臨床をしています。