下山晴彦

下山晴彦
(東京大学名誉教授/跡見学園女子大学・心理学部 教授)

コロナ禍を通して学んだこと

2019 年 12 月に中国・武漢市において「原因不明の肺炎」が流行し始めた。2020 年1月9 日には患者から新型コロナウィルスが見つかり,最初の患者死亡が報告された。当初は,武漢市,あるいは湖北省に限定したものであり,多くの日本人にとっては,対岸の火事という意識が強かった。しかし,2月3日には船内感染が疑われる豪華客船ダイアモンドプリンセス号が横浜に戻って来た。私達は,その頃からコロナウィルスが身近に迫ってきていることを感じ始めた。3月 11 日に WHOがパンデミック宣言をし,日本でも4月16 日には緊急事態宣言が全国に拡大された。このときには,コロナウィルス感染は,既に野火のごとく,私達の足元に広がってきていた。

その後、コロナ禍は沈静化と再燃を繰り返しながら私たちに影響を及ぼし続けてきていたが、遂にこの5月から感染症法上の位置付けが季節性インフルエンザと同じ5類に移行することになった。制度的にもポストコロナ 時代を迎えることになった。この3年間、コロナ禍によって国民が翻弄されただけではなかった。コロナ禍を経ることで社会の ICT化が一層進み,テレワーク等の新たな社会システムの構築が進んだ。

では、本センターは、この間、どのような経験をしたのだろうか。緊急事態宣言を受けて一時的に相談活動を中止したが、オンライン相談の仕組みを作り、コロナ禍に対処した。多くのクライエント様がオンライン相談を活用された。その後、ワクチン注射が開始されたこともあり、対面相談が再開され、対面とオンラインのハイブリッド相談もできるようになった。

このような経験を通して学んだことがある。それは、オンライン相談の経験を積むことで、逆にリアルな場での対面相談の意味が理解できるようになったことである。オンラインでの相談は、オンライン端末があれば,どこからでも利用できる。スイッチを切れば,すぐに自分の生活している現実に戻ることができる。ところが、対面相談では,自宅を出て,相談機関があるところまで移動する。そのためには外出着に着替え,お化粧などをして身だしなみを整える。車や電車に乗る。途中で嫌な経験をすることもある。相談機関に到着するまでの行程は,かなり難儀な作業である。

現在は、対面相談が9割に戻ってきている。コロナ禍のオンライン相談を通して気づいたのは、多くの皆様が、上記のような難儀な作業があるのにもかかわらず、対面相談を求めるということである。コロナ禍を経ることで来談者と心理士が同じ場で対面してコミュニケーションすることが如何に重要であるのかを学んだ。難儀な来談作業を経てセンターに来ていただいているクライエント様とお会いできる時間を大切にし、問題解決の支援することの責任を強く感じている。

 

令和の新年ご挨拶

令和として初めてのお正月を迎えた今年は、本センターがスタートして8年目、本郷の地に移って4年目となりました。この間、日本国内では数少ない認知行動療法の専門相談機関として、多くの皆様にご利用いただいてきました。この機会に、改めて本センターの心理職代表としてご挨拶をさせていただきます。

本センターは、私、下山が昭和58年(1983年)より非常勤心理職として務めておりました初台関谷クリニックの心理室が発展し、平成24年(2012年)に同クリニックの併設機関として設立されました。以来、私の本務校である東京大学の大学院附属心理教育相談室で認知行動療法の研鑽を積んだ仲間とともに相談業務にあたってきました。しかし、同クリニックが閉院となったため、平成27年(2015年)から2年間、成仁病院の附属機関として運営された後に、認知行動療法を基盤とする心理相談の専門機関として独立しました。独立と同時に、発達障害支援や家族相談を専門とする東京発達・家族相談センターを併設し、そちらとも協力して多面的な心理相談を展開しています。

現代日本社会は、高度情報社会となり、日々の生活は忙しく、ストレスが増大しています。その結果、心理的問題が増加し、内容も多様化しています。抑うつや不安といった心理的問題だけでなく、発達障害、引きこもり、いじめやハラスメントによるPTSD、ゲームなどの依存症、カップルや家族(親子)の葛藤などの問題もあります。うつ病、双極性障害、不安障害などの精神障害であっても、同時に心理的問題が併存し、複雑化しています。そのため、薬物療法だけでは十分でなく、認知行動療法を代表とする心理療法が必要となります。

そこで、本センターでは、精神障害や心理的問題の解決や改善に向けて、医療機関などの他機関と積極的に連携し、幅広いメンタルヘルス活動を展開してきました。相談を担当する心理職は、いずれも東京大学の心理教育相談室での臨床経験を経て、医療機関を始めとして様々な機関で勤務経験を積んできています。全員が国家資格である公認心理師に加えて臨床心理士の資格も有しております。スタッフ一同 令和の時代を迎えて気持ちを新たにし、皆様の心の健康の支援に精一杯取り組んでいく所存であります。

問題を抱えておられる御本人でなくても、関係者の方の問題についてのご相談でも結構です。何らかの心理的な問題でお悩みの場合には、気軽にお電話いただければ幸いです。

令和2年1月1日

心理職を代表して
下山晴彦

本東京認知行動療法センターの臨床心理士が出版した「認知行動療法」及び「うつ病」の書籍 につきましては、どうぞこちらをご覧ください。

東京認知行動療法センター移転のご挨拶はこちら

前回の臨床心理士代表 ご挨拶

認知行動療法は、効果研究の結果、治療の有効性が確認され、世界的観点でみるならば今やメンタルヘルス活動の中心的方法となっています。しかし、日本では、本格的に認知行動療法を提供できる専門機関は少ないのが現状です。
私は、これまで、下記に示すように認知行動療法に関連する書籍の出版やプログラム開発を中心に臨床研究を蓄積してきており、日頃よりその研究蓄積をなるべく多くの方に提供したいということを考えておりました。
「認知行動療法」という言葉の響きは固く、難しく聞こえるかもしれません。しかし、本サイトの「プログラム」をご覧いただければわかるように「うつ病」「子ども・若者のうつ」「パニック障害」「強迫性障害」「漠然とした不安感」「職場ストレス・職場復帰」「リラクセーション」に活かされます。
これらは、ほんの一例で、人間関係、家族関係、会社や仕事関連の問題など生きていれば、一度や二度直面する問題にとても有効です。認知行動療法は、来談者様がご自分の考えや行動のくせに気付き、新たな、あるいは幅広く柔軟な考えや行動のパターンを自主的に身に着けるための心理療法です。
セラピストは、そのような気づきや新たな考えや行動を獲得し、問題が改善した後も豊かな人生を生きていくためのお手伝いをいたします。そして、認知行動療法だけに囚われずに、しっかりと来談者様のご要望にお応えできるように、様々な心理療法を統合的に用いていきます。
セラピスト一同誠心誠意努力いたしますので、どうぞご利用いただければ幸いです。