以前、茶道のお稽古に通っていたことがあります。先生は70代後半くらいの女性で、お稽古場は先生のご自宅でした。お稽古の日はあらかじめ何時頃にうかがいますと約束をしてお願いしておくのですが、うっかり者の私はときどき遅刻をしました。そのたびに大慌てで電話をします。

「先生・・・申し訳ありません。仕事を終えられなくて・・・電車にも乗り遅れてしまって・・・15分遅れてしまいます」。返ってくる先生の言葉はおおむね同じような内容でした。「はい、わかりました。急ぐと危ないですからね。気をつけてゆっくりいらっしゃい」。

「急ぐと危ないですからね」の部分が、「雨が降っているでしょう、焦ると足下滑ってしまいますからね」とか、「暑いでしょう、気持ちが急くと具合まで悪くなっちゃうから」など季節や天候ごとにこちらを気遣う言葉に替わるのですが、どっしりと穏やかな口調でそう言われると、いつもすっと力が抜け、慌てふためいた気分が平常心に戻っていくのを感じたものでした。

社会はグローバル化が加速しているように思えます。効率主義、成果主義主導で、世界標準に見合うアグレッシブな個性、自立的即戦力が求められているようにも映ります。けれども、個々人の心の変化、育ちはもう少し緩やかに自然に進められるものかもしれないと、日々センターで皆さまにお会いしながら感じています。

急ぐと見落としてしまうこと、おざなりになってしまうことがあるように思います。それぞれの歩みに応じたきめ細やかなサポートを心がけたいと思っています。

さて、昨年は春日、西片の地で大変お世話になりました。東京認知行動療法センターは、新年とともに本郷にて新たな出発となりました。心理士一同、これからも皆さまのお役にたてるよう真摯に取り組んでまいります。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。