「気分が重い」から抜け出すには

 突然ですが、「クリーム」、「いちご」、「甘い」、「スポンジ」という言葉を思い浮かべてください。そうすると、何が思い浮かぶでしょうか。おそらく、ショートケーキではないですか。しかも、あるケーキ屋さんのものかもしれませんし、手作りかもしれません。いずれにしろ食べたり、見たりしたことがあるケーキだと思います。何が言いたいかというと、脳が勝手に過去の経験(見たり・聞いたり、体験したり)に基づいて、言葉に意味づけし、さらにはそれを関連づけて、一つのイメージを作るのです。

 このような脳の習慣化は、とても効率がよく、便利で、雨が降れば自然と傘をさしたり、階段があれば勝手に足を高く持ち上げたり、パソコンを前にすれば電源を入れて作業ができたりするのです。

 この効率の良さは一方で、困ることもあります。例えば、「朝」「寝起き」という状況では、人によって「今日あれもこれも、やることがたくさんあるな」、「あの人に会いたくないな」「うまくいかなかったらどうしよう」といった考えが思い浮かび、重い気分になったり、不安になったりします。とりあえず、起きて、活動開始すると、いつものルーチンに乗って、気分もついてくることはあるかもしれません。でも、そううまく行かない時もあります。脳は勝手に過去のことを思い出したり、未来に起きるかもしれないことを予測したりして止まりません。朝ごはんを目の前にしても上の空で食欲が湧かず、味気ないかもしれません。 

 この連想ゲームのような状態から抜け出す一助は、過去でも、未来でもなく、現在に目を向けるのです。具体的には、「何が起きているか」に注意を向けます。絵を鑑賞する時は、よく見て、心で感じ取ります。そのように「なるほど〜」と、今の自分を絵のようによく観察するのです。例えば、歯を磨いている最中に、歯ブラシを握っている手に注意を向けます。手のひらでブラシを握っている感触、握りしめている感覚はどのような感じでしょうか。小指に力が入って、あとは添えているくらいの力の入り具合でしょうか。このように身体に注意を向けると却って苦しくなるという方は、「今、何が聞こえるかな」と音に意識を向けてみてください。色々な音が聞こえますが、一つ一つに注意を向けてください。その後、一番心地よい音にしばらく耳を傾けます。あるいは、自分の気分に意識を向けて、「なるほど、気が重くなっているんだな」、「そうか、そうか」と繰り返し、声をかけます。

 身体の感覚、音、気分、3つの感覚に注意を向ける方法を紹介しましたが、いずれにしろ感じ取った感覚に対して、「どうにかしなくちゃ」とか「こうすれば気持ちがよくなるはず」と「コントロールしようとする」、あるいは「不快だ」と「反応する(react)」ではなく、「なるほどね」「そうか、そうか」「そんなふうに感じるのもあり」と「応じる(respond)」のです。そして、3つの方法のどれが自分に一番しっくりくるか、どれもしっくりこないかは人それぞれです。でも、不快な状態の理由を知って、そこから抜け出す方法として、「応じる」、試してみてください。

(M.M)