傘を失くしたい?! ―認知行動療法を生活に活かすヒント―

電車の忘れ物で一番多いのは何だと思いますか?

ちょっと前(平成12年)のデータですけど、衣類だそうです。手袋とかマフラー。

傘じゃないんですね。傘は2番。

 

てっきり傘が1番だと思っていました。

それは、自分が頻繁に傘を失くしていたからです。

 

高価な傘なら失くさないかもと、思い切って買ってみました。

失くしました。

思い入れのある物ならと、友達に頼んで誕生日にプレゼントしてもらいました。

失くしました(ごめんね・・・Rちゃんm(_ _;)m)

 

あまりにも失くすので、失くしても惜しくないビニール傘しか持たないことにしました。

 

するとどうでしょう、全く失くさなくなってしまいました。

しかも、にわか雨のたびに買うので、家の玄関はビニール傘だらけです。

 

困り果てた私は「傘を失くしたいーーーっ!」と強く願うようになりました。

 

初めは簡単だと思っていました。

だって、傘を失くすのは得意技ですから。

 

でも、何だかうまくいきません・・・。

電車でうたた寝をしてみます。わざと手すりにかけてみます。

だけど降りるときには、必ず傘に気づいてしまうのです。

 

忘れようと思えば思うほど、ビニール傘がその存在を増してきます。

傘を持って出かけたときは、常に頭の片隅に、ビニール傘があるのです。

 

なぜでしょうか?

 

第3世代の認知行動療法と言われるACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)には

「思考抑制の矛盾」

という考え方があります。

考えるのをやめようとすればするほど、余計にそのことを考えてしまい、悪循環に陥るというものです。

 

みなさんにも似たような経験はありませんか?

日頃、何気なく行っている抑えこみは、時に心理的な問題につながることもあります。

 

不安だ、不安だ。

いや、大丈夫、落ち着こう。

でも、何だかもっと不安になってきた。

不安だ、不安だ。

いや大丈夫・・・

あの時なんであんなことを。

いや、もうこのことを考えるのはやめよう。

でも、もし、ああしていれば。

あの時なんであんなことを・・・

 

この悪循環から抜け出す方法の1つが「考えを抑えることをやめること」です。

そして、自分に対して「今、不安なんだね」とか「今、後悔の気持ちが浮かんだんだね」と伝えてあげてみてください。

自分を苦しめる思考と、距離を取ることを、体験できるかもしれません。

 

その後、私は無駄な抵抗をやめ、「傘を失くそう」という考えを諦めました。

たまった傘は、行きつけの美容院に「急な雨のときにお客さんにどうぞ」と寄付しています。

おかげで気持ちも玄関もスッキリです。

 

その結果、傘を失くさないことにも、失くすことにもとらわれなくなりました。

今では、心穏やかに雨の日を迎えています。

 

以上、今回は、身近な経験から、ACTの考え方の一例を紹介してみました。「思考矛盾の抑制」への対処法は、他にもいくつかあります。もしご興味があれば、是非、当東京認知行動療法センターへいらしてください。

(Y.T.)