自分のスキーマに気づく
少し以前の話になりますが、東京大学先端科学技術研究センター(先端研)の中邑賢龍教授の講演を聴く機会がありました。中邑教授は先端研のバリアフリー領域で、学び・働き・暮らしに困難を抱える人たちの新しい社会システムを創造することを目指している先生です。その講演で中邑先生はフロアの聴衆に質問をしました。
「入試の際に、タブレットやパソコンを持ち込むことに賛成ですか?」
賛成/反対の挙手を求められました。フロアには400人ぐらいいたでしょうか。その中で賛成に手を挙げた人はほとんどいませんでした。これをお読みの皆さんはどう思いますか?私は正直持ち込みを許可するのは難しいのではと思いました。
しかし、中邑先生は、知力も視力と同じで、矯正知力というのがあっていいのではないかというお考えの方です。例えば、自分の思考のスピードの速さに、手で字を書くこと(書字)が追いつかないのであれば、パソコンで答案を作成してもよいのではないかとお話しされました。実際、東京大学ではそのような受験生からの申し出があったそうです。それに対し、パソコンの持ち込みは認められなかったものの、書字困難に配慮し時間延長が認められたそうです。
この講演を聞いて、自分のスキーマに気づかされました。スキーマとは、物事を捉える際の枠組のことです。こういった枠組があることは、外界からの情報を効率的に処理していくうえでは大変便利です。一方で、枠組から外れるものを取り入れることを邪魔する場合もあります。試験ではパソコンなどの外部媒体は一般的に使わないというスキーマを、私は経験的に形成していたのでしょう。
さらに言えば、外部媒体を用いた試験は公平でないという思い込みがあったわけです。それがパソコンを認めるという選択肢の存在を受け入れることを阻害しました。このスキーマは無意識的なものであるため、普段は気づきにくいものです。今回私は、講演で異なるスキーマと出会うことで、意識化することができました。自分のスキーマを知るためには、自分ひとりで考えるのではなく、自分と異なるスキーマを持つ他者との交流が必要な場合もありそうです。
認知行動療法では、心理士とのやりとりを通じ、普段は意識していないスキーマが見えてくるかもしれません。自分のスキーマってどんなものだろう?という関心があれば、是非センターを利用してみてください。
(Y.T)