「うつ」を「心の風邪」だと軽く考えるのは危険です。
「うつは心の風邪のようなもの」という言い方があります。
その言い方は、うつが非常にありふれたもので、偏見や差別の対象にしてはいけないこと、本人や家族も深刻に考えすぎてはいけないことを伝えるには、とても良い比喩です。
しかし一方で、うつが風邪のように、市販の薬や卵酒でも飲んで寝ていれば一日二日で治るものだという誤解を生んでしまうおそれもあります。
うつを治すには、ガソリンを求めてガソリンスタンドに走るような、能動的な治療が必要です。
「たいしたことではない」と軽んじて、行動を起こすタイミングを逸してはなりません。
ですから、「うつは心の風邪」という比喩と一緒に「うつは心のガソリン切れ」という比喩もぜひ憶えておいてください。
「うつは心の風邪」という言い方には、積極的な治療をしなくてもいいという誤解を生じさせることの他に、もう一つの不都合な点があります。それは、本人にとってのうつの苦しさを、最も支えになれるはずの家族や身近な人が過小評価してしまう可能性があることです。