認知行動療法とキャリア(働く体験の長年にわたる積みかさね)の理論
認知行動療法とキャリア(働く体験の長年にわたる積みかさね)の理論というと、一見、関係のないように見えるかもしれません。確かに、認知行動療法を初めとする心理療法は、大なり小なり心理的な問題を抱えた人たちを対象にしているものですから、そのような人たちとキャリアの理論から連想されるバリバリと働く人たちのイメージが結びつきにくいというのはあるでしょう。
しかし、バリバリと働く人たちは仕事について迷いがないのでしょうか。例えば、「自分のキャリア(働く体験の長年にわたる積みかさね)をどうしていくか」ということは非常に大きなテーマです。
このテーマの答えが簡単に見つかる人はまずいないのではないでしょうか。このテーマについて考えるときの手助けとなるのがキャリアの理論です。
ところで、キャリアの理論のなかには、心理学の「学習理論」を重視しているものがあります。実は、認知行動療法にも、その背景には「学習理論」があるので、この学習理論を重視したキャリアの理論とは相通ずるものがあるのです。
学習理論を重視したキャリアの理論として有名なのが、アメリカのクランボルツ博士の提唱した「プランド・ハップンスタンス(計画された偶発性)理論」です。
一言でいえば、偶発性というものは、本来、計画できないものであるが、それをできるだけ作り出していこうという理論です。
研究を通して、ビジネスパーソンのキャリアの80%は予期しない偶然の出来事で形成されることが分かり、そこから、できるだけ偶発(チャンス)と出会える生き方をすることが重要という理論が導かれたのです。
では、いかにすればチャンスに出会えるのでしょうか。これについては、行動すること、すなわち、いろいろな活動を試してみることの重要性が説かれています。チャレンジを重ねていれば、たとえ失敗しても、何か学ぶものがあるし、時には、その失敗さえもがチャンスにつながるというわけです。
認知行動療法でも、苦手なこと、不安の生じることを克服するために、それらをあえてやってみるという技法があります。この場合は、チャンスと出会うことが目的ではありませんが、実際に行動することによって何か新しいものを獲得していくという点では、相通ずるものがあると考えられます。
(S.M.)