「自己注目」とは

猛暑であった夏も終わり、朝夕には秋の気配を感じて一息つく今日この頃です。

 ところで、私は毎夏苦しむことがあります。それは、汗が出ると背中の古傷跡が痒くなることです。何と言っても苦痛なのは、満員電車の人熱で汗が出て痒くなる時です。身動きがとれないので意識が背中の痒みに集中します。

痒みに注目すればするほど痒さが増大していきます。悲しいかな、気にしないようにしようとすればするほど意識が痒みに向かい、痒みは耐え難くなってきます。

 このような現象を「自己注目」と呼びます。本センターに相談に来られる方の多くは、不安を解決しようとして、返って不安な事柄に注目してしまい不安を増大させています。心配しないようにと考えて、益々心配事に注目して考え込んで落ち込むということも起きます。

 どうしたらよいのでしょうか。ここで、満員電車の中で痒みと格闘している私に話を戻すことにしましょう。私が自己注目の蟻地獄に落ちて、「背中の痒みを何とかしてくれ!」と心の中で叫び、苦悶しているときに電車が急停車しました。

すると、「何起きたのか!」と意識が外に向かい、痛みのことなど忘れて窓の外を観ていました。

 このような時、つくづく人間の意識は不思議なものと思います。上手に注意を外に向け、不安や心配を忘れて次の行動に移ることが苦悩から逃れる秘訣です。センターで来談者の方をお会いしている時、このようなことを考えて対応しています

。(H.S.)